なりたさまかく語りき

結局好きなこと書くのがいちばんよい。

【書評】アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス)

読んだ。

 

 

以降自分がいいと思った文章を抜き出すのでネタバレ注意。

名言

ぼくは彼らの姿をはじめてはっきりと見たのだーー神でも英雄でもなく、ただ二人の人間が自分たちの仕事から何かを得ようとやっきになっている。

「大人」というのは歳を重ねただけの「子供」じゃないか、ということに大人になってはじめて気づく、みたいなことを理解できるようになったチャーリィ。

大学へ行き教育を受けることの重要な理由の一つは、いままでずっと信じ込んでいたことが真実ではないことや、何事も外見だけではわからないということを学ぶためだということをぼくは理解した。

当たり前のこと。

「言っておくがね、おまえさん、お節介しやがって後悔するぜ。おれはいつだってお前の味方だったのに。おれはどうかしてたんだよ」

正しい行いとはなんなのか考えさせられる一幕。

今では彼らがなんとちがって見えることだろう。そして教授連を知性ある巨人と思い込んでいた自分のなんたる愚かさよ。彼らはただの人なのだ

知能が上がるにつれ↑とはまたちがった意味で「人間」というものを知るチャーリィ。

いまでもあの声が聞こえる。だがおそらく私は解き放たれたのだろう。恐怖も吐き気ももはや溺れる海ではなく、現在とともに過去を映しだすただの水たまりに過ぎなくなったのかもしれない

海のような呪縛が完全に消えないまでも水たまり程度になった、という表現が詩的ですよね。

以前には思いもよらなかったけど、なんとかあなたを感心させたいなんて思うの。でもあなたといっしょにいると、だんだん自信がなくなってしまうの。いまじゃ、あたし、自分のなすことすべてに動機を訊ねているありさまよ

悪気はなくても他人を傷つけてしまうこともあるらしい。

自分が人並みの男のように振舞えるかどうか、人生をともに過ごしてくれと頼めるかどうかを知ることが、とつぜん、私にとっては重要になったのである。知能や教養を得るだけがすべてではない。私はこれもしたいのだ。放出とくつろぎを得たいという気持ちが強まって、それが可能だという気がした。

深夜の散歩で出会った女にワンチャン感じてセックスしたくなったチャーリィ。

あの子のような子供が生まれたら、それは十字架なんだよ、あんたはそれを背負い、それに愛を注がなきゃならん。

チャーリィのパッパ、マットがチャーリィマッマとの喧嘩で放った言葉。綺麗事ではない現実がある。

詐欺師だーー二人とも。彼らは天才のふりをしていたのだ。手さぐりで仕事をしている凡人にすぎないくせに、闇に光りをもたらすことができるようなふりをしていたのだ。

知能を高めたチャーリィの高慢も行き着くところまで行き着いた感。別に教授二人はチャーリィを騙していたわけでもなく、後世に名を知られる功績を残した人の大半がそうである。別に偉人が皆全知全能なわけではない。

「きみはいまとびきりの頭脳をもち、計り知れない知能と、大方の人間が一生かかって吸収するよりもたくさんの知識を得た。だがきみはアンバランスだ。きみは物事を知っている。物事が見える。しかし理解力とかーーこんな言葉は使いたくないがーー寛容とかいうものが未発育のままなんだよ。きみは彼らをいかさま師だというが

、あの二人がいつ、自分たちが完璧な超人だと言ったかい?彼らは凡人。きみは天才だ。

そういうことです。

とにかく、アルジャーノンがもう独りぼっちでないのが嬉しい

ねずみのアルジャーノンへの愛はちゃんとあるチャーリィ。

でもどうしてもできない、説明できないけれど、でももしやめなかったら、ぼくはこの先一生自分を恨むようになるだろう。

〜中略〜

説明はできないが。自分でもよくわからない。まだその準備ができていないんだと、ただそう言わせてくれ。ごまかすわけにはいかない、大丈夫でもないのに大丈夫だと、ごまかしたり欺いたりはできない。それは結局別の袋小路にすぎないんだ

なんかかっこいいこと言ってるんですけど、彼女とセックスしようとして結局できなかった言い訳なんですよね。でもなんか背後にでかいものを背負ってる感があってかっこいいっぽいので、理由を述べずにその場をやり過ごす際の言い訳として今後使ってみたいと思います(最悪の感想)。

「やれやれ。背負う十字架がひとつじゃたりないっていうんですかね」

十字架いただきました。

くたびれた顔をした痩せぎすの長身の男である。しかし落ち着いた青い目は、若い表情のかげにある力を感じさせた。

おれも「かげにある力」を感じさせるパーツ欲しい。

わたしはこの子たちが好きでたまらないんですよ。楽な仕事じゃないけれど、この子たちがどれほどわたしたちを必要としているか考えるだけで報われるというものです。

〜中略〜

正常な子供はすぐに成長してしまって、わたしたちを必要としなくなります……

〜中略〜

でもこの子たちは、わたしたちが与えることのできるものをすべて必要としているんですよーー一生涯ね

重度障害者施設で働く女性の発言。覚悟があるようにも、愛を与えることに病的なまでの執着があるようにも感じる。

たとえひとにぎりのデータにしろ、つけくわえることになるならば、私は満足するだろう。私に何が起ころうとも、まだ生まれてこない仲間たちに、何かを与えたことによって、私は正常人千人分の一生を送ったことになるだろう。

それで十分だ。

自分に残された時間の使い方を見出した覚悟の場面。

私はいま崖っぷちに立っている。それが感じられる。みなは、こんなペースでやっていたらまいってしまうと考えているが、彼らが理解していないのは、私が、かつてその存在を知らなかった澄明(ちょうめい)さと美の極地に生きていることである。私のあらゆる部分この仕事に波長を合わせている。昼間はそれを毛穴に吸収し、そして夜はーー眠りにおちる寸前にーーさまざまな着想が花火のように頭の中で炸裂する。

ゾーンだ。超集中状態ってほんとに意識がクリアなんだよね。「澄明さ」なんて単語使ったことないけど美しい言葉だなあ。

「知能だけでは何の意味もないことをぼくは学んだ。

〜中略〜

人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです」

紆余曲折を経て超短期間でこの世の真理に気づいたチャーリィ。

彼女にとってもっとも重要なのはいつも他人がどう思うかということーー彼女自身より家族よりまず外聞なのだ。

毒親じゃん(そんな単語でこの描写を矮小化するな)。

おそらく永久にわかるまい。真実がどうであれ、ノーマを守ったローズを憎んではならない。彼女の味方を理解してやらなければならない。私が彼女を許さなければ、私が得るものはなにもないだろう。

許そう。だってあなたも許されてきた。

真実の重荷を負わせるいわれはない

ワードチョイス。

怖い。生が、死が、無が怖いのではない。自分が存在しなかったかのようにそれを浪費したことが怖いのだ。

このページを読む前にセネカの「生の短さについて」を読んだことはものすごい偶然だと思う。

なんとかしていままで学んだものに少しでもしがみついていなければならない。おねがいです、神様、なにもかもお取りあげにならないでください。

とてつもない悲愴感。

愛の神秘をわかったようなふりはすまい、でも今のこれはセックスと言ってはいいたりない、女の肉体を使うと言うだけではたりない。

ついに愛する女とセックスできたチャーリィ。

地上をはなれ、恐怖の、苦悩の外へただよい、自分自身より大きな何かの一部になったーー心理療法の長椅子の上であの日経験したのと同じだ。それは宇宙へ向かってーー宇宙の外へ向かってーー踏み出した第一歩だ、なぜならばその中で、それによってわれわれは、人間の魂を再生し永遠不滅のものとするために合体するのだから。外へ向かって拡がり、爆発し、うちに向かって縮み、形成する、それは実在のリズムーー呼吸の、鼓動の、昼の、夜のーーそしてわれわれのと同じものだ。どす黒いものが私の心から拭いさられ、それを通して光りが私の脳髄に射した(光りが目をくらませ見えなくさせるとはなんと奇妙なことだろう!)、そして私の肉体は宇宙の広大な海に呑み込まれ、不思議な洗礼をほどこされる。私の肉体は、与えることによって震え、彼女の肉体はそれを受け入れて震えた。

なっが。すごいこと書いてあるけどこれ全部せっくすのことだからね。

ぼくわりこうになるための二度目のきかいをあたえてもらたことをうれしくおもていますなぜかというとこの世かいにあるなんてしらなかったたくさんのこともおぼいたし、ほんのちょっとのあいだだけれどそれが見れてよかたとおもているのです。それからぼくの家族のことやぼくのことがよくわかたのもうれしいです。みんなのことをおもいだしてあうまでわ家族なんかいないのとおんなじでしたけれどもいまわ家族もあることがわかっているしぼくもみんなみたいな人間だとわかっているのです。

ついに手術を受ける前の知能レベルまで落ち込んだチャーリィ。愛を知り、「人間」を、「自分」を、理解できたとわかる文章。

ついしん。どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそえてやてください。

タイトル回収。一貫して、チャーリィはアルジャーノンに愛を持っていたんだよな。

 

総評

何も文句ないよ。100点だよ。

色々褒めるべき点はあるけど、やはり不朽の名作というだけあって、素晴らしい作品だったよ。素敵な作品をありがとうございました。感謝しかないよ。