なりたさまかく語りき

結局好きなこと書くのがいちばんよい。

【書評】人間として最良のこと as a person(キム・ヘナム

読んだ

 

分厚かったけど割と最後まで面白く読めた。中年のアイデンティティクライシスに効く処方箋といった感がある。

 

名言

現代の消費主義は人々の欲望をあおり、快楽を貪欲に追求することを正当化するだけでなく、美徳とまで称賛します。そのため、クールな人たちは悩みの解消法にショッピングを用います。

買い物でストレス発散、って結局何も解決しないのにやってしまうというか、世間にやらされてるようなものだよね。

「クールというのは、限りないやさしさなんだ。どろどろとした人生の重力圏の外側にいるってことだよ。生きている人間には、絶対に許されないんだ。生きていようとしたら、日常的に呻き声をもらすものだから」

「クール」を気取るより泥臭くて人間臭い方が好ましい、と最近思えるようになってきました。

大人になるとは、夢見ていた自分とは、まったく違う自分の姿を直視すること

ぐうわかる。大学生になっても二十歳になっても社会人になっても30超えても、大人というものになれてる気がしない。ただ憧れが現実とは違うってのを知る機会が多くなっただけな気がする。

たとえ、不幸になることがあっても、人生をみずから選び、実行する自由

自分で選べることが最大の幸せ、という考え方はグレッグ・イーガンの「しあわせの理由」という作品でも語られていた気がする。

それが自分にどういう意味を持つかだけは決められる

この世がわたしのすべてを奪い、最悪の状況を与えたとしても、絶対に奪いとれないものがひとつあるのを忘れてはいけません。それは、その状況をどのように受け止めるかに対する選択権です。

アドラーみがある。

人間はだれもが他人の視線から自由になれないのです。

「ここは今から倫理です」で見たやつだ!

いまからでもよいので、自分だけがスターで、この世界の主人公だという錯覚を捨ててください。他の人たちもみな人生の主人公で、彼らの人生のを一生懸命に生きているのですから。

〜中略〜

人々の視線に重きを置いて、外見ばかりに投資するようになると、内的成熟のために投資すべきエネルギーが減ってしまいます。人生を浪費してしまうのです。

インフルエンサーとかに刺さって欲しい。

最近「わたしはお前が恥ずかしい」という言葉が流行しているようです。その言葉には恥ずかしくない人を連れて歩きたいという欲望が隠れています。その人が好きだから一緒にいたいと思い、一緒に歩きたいのでなければいけません。弱い自分を穴埋めしてもらう対応策として他の人を選んではいけません。

なにがそんなに恥ずかしいのですか?

こういうこと言う奴も「モラハラ」と言って可視化できるようになったのがいい時代だと思うようになった。

まず、先入観や偏見なしに心を開いて、人々を見てください。そうすればわかるはずです。すべての人に学ぶべき点があるということが。

ニーチェみがある。「尊敬できない人と一緒にいるの無理だわ〜」みたいなこという人がいるけど、全ての人は自分とは違うのだから、絶対に自分より優れている点・尊敬できる点があるんだよね。相手の内にそれを見つけられない自分を恥じなさい。

それは、どんな過ちを犯しても許され、どんなに悪いことが起きても誰かが必ず現れて状況を変えてくれるだろうという、幼いときの期待を手放ことなのです。そして、これからはあらゆることをみずから決めて責任を負わなければならず、権利よりも義務が大きい時期になったことを認めるのです。また、自分の力はたいしたことなく、享受できる自由にも限りがあり、愛する人との関係さえ不完全であるという現実を受け入れます。限界に気づくこと、もうこれ以上は選択できなくなったと認めること、実現できなかった夢と現実のギャップを思い知ることなどは、人間という存在の一つの姿です。

ねえビュウ、大人になるって悲しいことなの。。

わたしたちは両親の体を借りて、この世に生まれましたが、両親とは異なる魂を持つ独立した存在です。

「だから親に縛られずに幸せになっていいんだよ」という文脈の言葉。ちょうどこの時「一生この親に縛られて生きていかなきゃいけないんだ」と思っていたので無性に刺さってしまった。。

自分は被害者だという考えに陥ると、だれもが自分のことをとても特別な存在だと思うようになります。

〜中略〜

過去にいくらつらい傷を負ったとしても、現在の自分の行動に対する責任は自分自身にあります。

ちょうどこの時「HSPだから特別扱いしろという同僚に辟易・・」みたいな記事を読んで色々考えてたので刺さったんだと思います。今更文章抜き出してきたところで、至極当たり前のことだと思いますけどね。(世の中に世の中にそれが当たり前でない・通じない人もいますわな。。)

人間がもっとも美しい瞬間は、きわめて「人間的」だと思われる瞬間です。

ヘルシングで見た。

老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ」鬼滅の刃の名シーンに例の旦那を混ぜても全く違和感がない - Togetter

他人を信じられず、あらゆることをみずからやらなければ安心できない人たち。彼らはつねに心穏やかでなく緊張しており、いつも慌ただしいのです。

〜中略〜

彼らは他人に仕事を頼む時があったら、いてもたってもいられません。仕事がどう進んでいるのか、どれほど進んだのか、あらゆる状況を全て把握しておくべきだと考えるからです。人々はそんな彼らを見て、「他人を絶対に信じられず、自分しか信じられない人間」だと言いますが、実はそうではありません。

彼らは自分自身も信じられません。

ですから、仕事の速度も遅いのです。几帳面なのは良いのですが、間違いがないか確認するために、時にはもっと大きなものを逃すこともあります。そういうわけで、ほかの人たちよりも熱心に仕事をしますが、成果はあまり出ません。

ちくちく言葉です。事実陳列罪です。ひどい。まあ意識して完璧主義はやめるように努めていたつもりだけど、仕事の中ではつい人の進捗や品質を管理したくなる自分が首をもたげてくることがいまだにありをりはべり、いまそがり。

だれも信じられず、ことごとく干渉してくる人をだれが好きになるでしょうか?

あーあー聞きたくない。

すべての過去は、今を豊かにする

なんか、「過去のことで後悔しても、それがあって今の幸せな自分があると思えるならいいじゃない」みたいな言葉について考えながら読んでいたんだと思います。

どうでもいいんですけど、昔テイルズオブデスティニー2で、スタンの言葉として「反省はしても、後悔はしなくていい」みたいな言葉があったような気がしてて、いい言葉だなあ、なんて思ってこの言葉を抱えながら生きてきたんですけど、最近は「後悔したことすら抱えながら今を肯定して生きるのがいい人生」なんじゃないか、と思うようになっています。

あなたはもう大人で、あなたの人生の主です。

あるじ殿ー

度を越して利己的なことをした人たちは、最後には後悔する日が来るものなのです。

たしかこれを読んでた時、親父との仲が過去最悪になってて、もう過去一の悪態というか悪意というかが止まらなくって「自分勝手に生きてきたんだから最後は迷惑かけずに孤独に死んじまえ」みたいなことを、口に出さないまでも思ってて、この行読んだ時に「まさにこれジャーン」的な共感をしたような記憶があります。

なんだかんでそんな親父とも今は関係回復して、まあ最後に家族に迷惑かけずに死ぬんだったら葬式くらいはできる限りしてやるかーみたいな感じに思っております。

生きるということはしょせん、きわめて少しずつ私と知っていき、相手を知っていく過程です。しかし、生涯を共に暮らしても相手のすべてを知ることはできません。私たちにできるのは、お互いが知ることとなった互いの傷を抱擁しあい、癒していくことだけです。

詩的だなあ。

しかし愛が単なる脳の科学作用に過ぎないからといって、悪く言うのは良くありません。化学物質が脳から分泌されるのも、相手が誰でもいいわけではないのですから。

つまり、わたしが愛する唯一の人、その人見ないと分泌されないのです。その人を愛しているから神経伝達物質が分泌されるのであって神経伝達物質が分泌されるからその人を愛しているわけではありません。

科学オタクの告白に使えそうだなとか思ってしまいました。

ともすれば子供のことを恨みました。子供がわたしの成功を妨げているように感じることが、ときどきあったからです。わたしはそんなふうに子どもを愛し、恨みながら、ひとりの人間として少しずつ成長していったのです。

これをちゃんと口にできる親ってすごいと思ってて。「子供を作ったのなら親として務めを果たすべきだ」みたいな価値観が受け入れられてる裏で、口に出してはいけないこととして留められた言葉や想いというのもあるわけで。そういう価値観があることを受け入れた上で、恨んだこともあったよと口に出すことってとても勇気がいるんじゃないかと。「自分の人生の中で思い通りにならず犠牲になったものがあって、それを恨むこともあったけど、子供を育てられたことは幸せ」なんて言える親って自分とは生きてるステージが遥かに違うんだろうなって思う。人の身でよくそこまで練り上げた。

何歳になっても、新たな夢に挑戦できます。他人の人生だからと、決して適当にいっているわけではありません。事実、年齢を重ねたことによるたくさんの長所によって、挑戦は可能になります。

〜中略〜

現実的な自分の限界がわかるため、現実に合わせて夢を調整できるようになるのです。

〜中略〜

苦労のすえに大学に受かったら幸せが始まり、大学に落ちたら人生も終わりだと考えていたかもしれませんが、はたしてそうでしたか?

年齢を重ねたことによる長所、きっと俺にもあるよね。。。

年を重ねることのよさは、心から好きなものがなにかがわかり、どのように生きればこの短い人生を真に価値あるものにできるのか、省察できることです。

セネカも同じようなこと言ってた気がする。いい年して消費ばかりで自分が何に夢中になれるかもよく分からないなんて恥ずかしげもなくいえちゃう人生送りたくないんだよな。

恋に落ちたというのに、あれこれ現実的なことを悩む自分を「俗物」と卑下する必要はありません。責任に対する意識が高まっていく年齢なので、責任を負うことができる恋愛に悩むのは、むしろきわめて当たり前のことです。

多分この時、親父との仲が最悪かつ、親父が精神病&アル中で盛大に家族に迷惑をかけていた時期だったので、「結婚してもこのクソ親父を養う義務が発生するとか言えるわけねーじゃんな」みたいなことを考えていたと思います。

そんな親父も頑張ってアル中克服しようと決意をしたようなので応援することにしました。

いまのあなたの選択と行動が正しいのか間違っているのかは、未来が教えてくれます。

「あなたがいつも正しい。たとえ間違っていても正しい」

ルイスと未来泥棒』というアニメーション映画で、ロビンソン夫人が主人公のルイスに伝える言葉です。

スタンの言葉よりこっちの方が好きです。

 

総評

長いだけあって(399ページ)、名言抽出も多くなった。幸福論というほどではないけど、現代人の悩みに効く処方箋的な本だと思います。たぶん、人間の本質や幸福って何千年経っても変わらないとは思うんですけど、分かりやすい数字や理想像を描くための情報にすぐアクセスできる現代人が何を否定して何を追いかけるべきなのか、そういう方向でチューニングされた人生指南書だと思いました。

87点/100点

 

 

 

 

 

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